大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成9年(行ウ)175号 判決

原告

シャトーブラン株式会社

右代表者代表取締役

グレゴリー・カーリー

右訴訟代理人弁護士

阿部能章

被告

麻布税務署長

横内康矩

右指定代理人

本田敦子

外三名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告が平成七年六月三〇日付けで原告に対してした、平成三年八月一日から平成四年七月三一日までの課税期間の消費税に関する更正のうち納付すべき税額二〇一万六三〇〇円を超える部分、平成四年八月一日から平成五年七月三一日までの課税期間の消費税に関する更正のうち納付すべき税額三八八万五八〇〇円を超える部分及び平成五年八月一日から平成六年七月三一日までの課税期間の消費税に関する更正のうち納付すべき税額二七三万二三〇〇円を超える部分並びに右各課税期間の消費税に関する過少申告加算税の各賦課決定処分(いずれも平成九年四月二三日付け審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

第二  事案の概要等

一  事案の概要

本件は、通信販売業を営む原告が、顧客からの代金の回収について別紙1の「会社名」欄に記載した各社(以下「本件カード会社」といい、各社を同別紙の符号欄に記した英字符号をもって表示する。)に対して支払った手数料(以下「本件手数料」という。)は消費税法(以下「法」という。)二条一二号に規定する課税仕入れに該当するから、法三〇条一項(平成六年法律第一〇九号による改正前のもの。以下同じ。)の規定に従い、前記第一に記載した各課税期間(以下「本件各課税期間」という。)において、本件手数料に係る消費税額の控除をすべきところ、被告は、これを控除することなく、前記第一に記載した各更正(以下「本件各更正」という。)及び各賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)をしたとして、本件各更正及び本件各賦課決定の取消しを求めるものである。

二  関係法令の定め

1  消費税は、国内において事業者が行った資産の譲渡等を対象とし(法四条一項)、その対価の額(課されるべき消費税に相当する額を除くもの)を課税標準とするものである。

そして、課税対象となる資産の譲渡等には、貸付金その他の金銭債権の譲受けその他の承継(包括承継を除く。)が含まれる(法二条一項八号、消費税法施行令(以下「令」という。)二条一項三号)が、国内において事業として対価を得て行った資産の譲渡等のうち、法別表第一に掲げるもの(以下「非課税取引」という。)はその例外とされ、非課税取引以外の資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が課税資産の譲渡等とされている(法二条一項九号、六条一項)。

非課税取引を列挙する法別表第一は、その三号において、利子を対価とする貸付金その他の資産の貸付け、信用の保証としての役務の提供等のほか、その他これらに類するものとして政令で定めるものを掲げ、これを受けて、令一〇条三項(ただし、平成九年政令第三八三号による改正前のもの。以下同じ。)八号は、金銭債権の譲受けその他の承継(包括承継を除く。)を掲げる。

なお、消費税法取扱通達六―三―一(以下「本件通達」という。)は、法別表第一中三号の規定において非課税取引とされるものの例として、国債等、貸付金及び預貯金の利子(本件通達(1))、手形の割引料(同(9))、金銭債権の買取又は立替払に係る差益(同(10))等を対価とする資産の貸付又は役務の提供を掲げるが、割賦販売法二条三項に規定する割賦購入あっせんの手数料(同(11))、割賦販売等に準ずる方法により資産の譲渡等を行う場合の保証料相当額(同(12))並びにいわゆるファイナンス・リースに係るリース料のうち金利及び保険料相当額(同(17))については、その額が契約において明示されていることを必要としている(乙第一四号証)。

2  納税義務を負担する事業者が、その事業において、他の者から受けた資産の譲渡等が、当該他の者にとっても課税資産の譲渡等に該当することとなるもの(以下「課税仕入れ」という。)であるときは、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税仕入れに係る消費税額を控除すること(以下「仕入税額控除」という。)とされている(法三〇条一項(平成六年法律第一〇九号による改正前のもの。以下同じ。)、二条一二号)。

三  争いのない事実等(乙第九号証の一、二及び乙第一四号証を除く本件記録中の書証目録記載の各証拠)

1  原告は、通信販売を主たる目的とする株式会社である。

2  原告は、Nを除く本件カード会社との間では契約書を取り交わし、本件カード会社との間では別紙2記載の各条項を含む契約を締結した(以下本件カード会社と原告との間の契約を「加盟店契約」という。)。

本件手数料に係る本件カード会社、本件カード会社の会員(以下「カード会員」という。)及び原告との間の事務処理の概要は、次のとおりである。

(一) 原告は、カード会員に対して送付された本件カード会社の発行する宣伝媒体又は原告の商品カタログ等によって、カード会員に対し、自社の商品売買の申込みの勧誘を行う。なお、宣伝媒体又は商品カタログの作成、送付費用の負担については、手数料と別に規定されており、その費用は加盟店である原告が負担することとされている。

(二) カード会員は、本件カード会社の宣伝媒体に掲載された広告又は自己に送付された商品カタログを見て、本件カード会社を通して、又は直接、原告に対して商品購入の申込みをする。

(三) 原告は、右申込みを受けてから速やかに、商品をカード会員に発送する。

(四) 原告は、売上票等を本件カード会社に送付し、商品代金相当額を請求する。この場合の原告の支払請求権の法的根拠としては、カード会員に対して有する原告の商品代金債権の本件カード会社への譲渡とするもの(AないしG及びIに関する加盟店契約。ただし、Bの乙第二号証の二に係る加盟店契約を除く。)又は代金の収納事務の委託(Bの乙第二号証の二に係る加盟店契約)とするものがあるが、右以外のものについては必ずしも明らかではない。なお、加盟店契約中には、原告がカード会員に対して直接代金を請求することを禁止する条項を定めるものがある。

(五) 売上票等の送付を受けた本件カード会社は、加盟店契約所定の支払期日において、原告に対して、商品代金から加盟店契約に基づく手数料相当額を控除した金額を、預金口座への振替によって、原告へ支払う。

(六) 本件カード会社は、カード会員との間に締結した契約(以下「会員規約」という。)に基づき、商品代金を回収する。この回収は、原則として、カード会員の預金口座から所定の期間ごとに集計されたカード利用料(代金)の振替(引落し)により行うものとされている。

本件カード会社がカード会員から商品代金を回収する権利(カード会員への支払請求権)の法的根拠としては、加盟店からカード会社への債権譲渡を前提とするもの(AないしC、EないしG、I、K及びLに関する会員規約)、加盟店に対するカード会社の立替払を前提とするもの(H及びMに関する会員規約)とがある。なお、Dに関する会員規約では、提携カードの種類によって立替払又は債権譲渡とされ、Jに関する会員規約では、原則を立替払とし、債権譲渡とする場合を予定している。

(七) 多くの加盟店契約においては、カード会員の資格に関する瑕疵あるいは商品の発送、数量、内容等に関する瑕疵を、原告が本件カード会社から受領した金員の返還又は代金債権の買戻しの事由としている。なお、カード会員の資金不足によって商品代金を回収することができなかった場合をも右の受領金の返還又は代金債権の買戻しの事由とするものがある(Aの乙第一号証の二、Bの乙第二号証の二及びHの第三一号証の二に係る各加盟店契約)。

そして、右受領金の返還又は代金債権の買戻しに際して原告がカード会社に返還すべき金額は、既に受領した債権代金と規定されているが、現実には、債権代金から手数料相当分を控除した金額すなわち原告の口座に振り込まれた金額を返還することとされている。

3  原告は、本件各課税期間において、それぞれ、別表一ないし三の各課税標準欄記載の金額に相当する課税資産の譲渡等を行い、本件カード会社に対してそれぞれ別紙1記載の本件手数料を支払った。

4  本件各更正及び本件各賦課決定の内容は別表一ないし三の各6審査裁決の項に記載したとおりである。

すなわち、本件各課税期間における納付すべき消費税額は、別表一ないし三に記載した確定申告に係る課税標準額の一〇〇分の三を消費税額として、控除対象仕入税額(ただし、平成五年八月一日から平成六年七月三一日までの課税期間については、貸倒れに係る税額四万〇一二四円を加算した金額)を控除した金額(国税通則法一一九条一項の規定により、一〇〇円未満の端数を切り捨てた後の金額)であり、本件各課税期間における過少申告加算税額は、右によって算出された納付すべき各消費税額と各確定申告に係る納付すべき税額との差額(同法一一九条一項及び同法一一八条三項の規定による端数処理をした後の金額)に一〇〇分の一〇(同法六五条一項)を乗じた金額である。

なお、原告は、本件カード会社に対して支払った手数料を課税仕入れとして、控除対象仕入税額に加算すべきものと主張するものであり、その余の点については争いがない。

5  本件各課税期間における消費税に関する更正処分等の経緯は、それぞれ別表一ないし三に記載したとおりであり、原告は、平成九年七月一五日、本訴を提起した。

四  争点に関する当事者の主張

1  原告

(一) 本件手数料は、本件カード会社の会員組織を利用し、商品代金の回収という役務(本件カード会社における、①カード会員からの購入申込みの受付け、②無効カードの通知等によるカード会員の信用度の連絡、③購入希望者及び対象商品の連絡、④代金収納事務の代行)に対する対価として、これにより、代金回収の簡易化、成約率及び代金回収率の高い会員組織の利用、本件カード会社の知名度の利用という利益を得る原告が商品代金の譲渡とは別に支払うものであり、一般のクレジット手数料とは異なる。

(二) 原告が本件カード会社に対して支払う手数料は、通常一〇パーセントであるが、場合によっては三〇パーセントのものもあり、これを年利換算すると一二〇パーセントないし三六〇パーセントという金融取引における利益あるいは譲渡債権の割引料と同視することができない高率となっているのであって、かかる手数料が許容される理由を社会通念に照らして検討すれば、本件手数料の実体は原告において消費し、これを最終消費者に転嫁すべき(一)に記載した役務の対価と解すべきであり、金銭債権の譲受けの対価と解すべきではない。

(三) 本件手数料の実質は役務の対価であるから、仮に、本件手数料中に利子に相当する部分が含まれているとしても、その部分を明示していない本件の各加盟店契約においては、本件通達(17)の趣旨に照らして、右部分を債権譲渡の差益と見る余地もない。

(四) 本件カード会社から原告への代金の支払方法として、手数料相当額を控除することは取引当事者間の決済方法の問題にすぎず、このことから、支払金額のみが債権譲渡の対価であるとする理由にはならない。このことは、商品代金債権と手数料を区別して規定しているEとの間の契約において明らかである。

債権譲渡が無効となる場合とは、売上票が正当でなく、又は不実の記載がある場合であり、そもそも譲渡すべき債権が発生しないのであるから、この場合の原告から本件カード会社への受領金(商品代金から手数料を控除した金額)の返還は不当利得返還の性質を有するのであって、本件カード会社に手数料が保持されないからといって、本件カード会社との契約の内容が役務の対価でないことの理由とはならない。

2  被告

(一) 別紙2中「売上債権の処理」の「〔形態〕被告の主張」欄に「債権譲渡」と記載した取引は、原告のカード会員に対する商品代金債権をカード会社へ譲渡し、所定の締切日までの商品代金総額の一定割合を本件手数料として控除した金額を譲受代金として原告に支払うこととしているものであるから、本件手数料は債権譲渡の対価というべきであり、同欄に「立替払」と記載した取引は、カード会社がカード会員との規約により債権譲渡の事前承諾(Bの乙第二号証の二に係る加盟店契約、K及びLの各加盟店契約)又は立替払契約(H、J及びMの各加盟店契約)に基づいて、原告に支払をしているものであるから、立替払による差益というべきである。

(二) 通信販売に伴う宣伝媒体又はダイレクト・メールの作成、送付費用は原告の負担とされているから、本件手数料に宣伝広告費用は含まれていない。また、仮に本件手数料が本件カード会社のシステム利用の対価であったり、売買の媒介又は代金の徴収事務の委託費用であるとすれば、商品の瑕疵による代金の返還、代金債権の買戻しの場合にも、既にシステムを利用している以上、手数料の支払義務を負担することとなるべきであるが、返還すべき金額は商品代金から本件手数料相当分を控除した金額となっている。

(三) 原告が本件カード会社に支払う手数料が年利換算した場合に金融の対価として高率になるとしても、債権の譲渡、立替払における対価は、債権の回収困難性、債務者の信用、譲渡者の取引関係等様々な要因によって決定されるものであるから、右の事情から手数料が会員組織利用の対価であるとしか説明できないものではない。

(四) 本件通達(17)は、ファイナンス・リース等に関するものであり、債権譲渡の契約に関するものではない。

五  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第三  当裁判所の判断

一  本件の検討方法

本件の争点は、原告が本件カード会社に対して支払う本件手数料が本件カード会社にとって消費税を課されるべき課税資産の譲渡等の対価に該当するかどうか(法三〇条一項、二条一二号)、換言すれば、本件カード会社が原告から受領する本件手数料が令一〇条三項八号に規定する金銭債権の譲受けその他の承継の対価に該当するかどうかにある。そして、この点を判断するには、非課税取引を規定した法の趣旨、当該取引の内容を規定する契約の内容及び取引の実体を総合的に検討すべきものである。

二  非課税取引の趣旨

消費税は、財貨及び役務が生産から流通の過程を経て消費者に提供される流れに着目し、その過程に関わる事業者の売上を課税の対象とすることにより、間接的に消費に負担を求める税である(税制改革法一〇条、一一条)。そして、課税対象となる取引は、国内において事業者が対価を得て行うすべての資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供であり(法四条一項、二条一項八号)、その役務の提供の中にはいわゆる金融取引に係るものも含まれるが、決済手段あるいは信用供与手段としての金融取引は、財貨及び役務の流通、決済を活発かつ円滑ならしめるものの、その性質上、そこで付与される価値が財貨又は役務の価格を高め消費の対象となるものではないから、利子を対価とする資産の貸付、信用保証としての役務の提供等は非課税取引とされ、金融取引というべき「金銭債権の譲受けその他の承継」(令一〇条三項八号)も非課税取引とされるのである。そして、債権譲渡以外の金銭債権の承継としては、本件通達において、貸付金利子、金銭債権の譲渡代金、差益、手形の割引料等を対価とする金銭債権の買取又は立替払等が掲げられているところ、立替払は、弁済の一方法であるが、適法な立替払は債務者に対する求償権を発生させ、弁済者は債権者に代位する点で、債権譲渡と同様の経済的効果を有するから、これを非課税取引とする本件通達は、法の解釈として是認することができるものである。

三  契約の内容

1  加盟店契約及び会員規約の内容は、既に検討したとおりであるが、本件カード会社がカード会員から原告のカード会員に対する商品代金債権を取り立てる法的根拠については、加盟店契約及び会員規約の双方において代金債権の譲渡と規定するもの(乙第二号証の二に係るBを除くAないしG及びI。ただし、Dの会員規約は提携カードの種類によることとされている。)、加盟店契約においては単に原告への代金相当金額の支払のみを規定し、会員規約においては債権譲渡を予定するもの(乙第二号証の二に係るB、K及びL)、加盟店契約においては単に原告への代金相当金額の支払のみを規定し、会員規約においては立替払と規定するもの(H、J及びM)がある。なお、乙第二号証の二に係るBについては、加盟店契約においては代金回収事務の委託とするが、会員規約においては、代金債権の譲渡承諾を取り立ての根拠とし、Jにおいては、会員規約により立替払のほか債権譲渡の場合をも予定している。

2  本件手数料中に、本件カード会社の会員組織を利用した宣伝媒体の利用、広告費用の負担が含まれていないことは、いずれの本件カード会社にも共通する。

3  原告の商品の未送付、数量、内容の瑕疵を原因とするときを含む代金の返還又は代金債権の買戻しがされる場合において、代金債権の回収がされないことは当然であるが、売買契約の成立について本件カード会社の会員組織を利用したのにもかかわらず、原告は本件カード会社に対する本件手数料の支払を免れるものとされている。このことからすると、手数料の支払義務は本件カード会社からの代金支払がされた各個の売買について発生しているものということができる。

4  本件手数料に係る事務の処理において、本件カード会社が行う役務は、所定の期間ごとに、原告から送付される売上票等に基づきカード会員が購入した商品の代金を合算し、その合算額から本件手数料相当額を控除した金額を原告の預金口座に振り込み、他方で、カード会員の預金口座から所定期間分のカード利用代金を引き落とすことであり、その中心的事務は銀行口座間の振替事務という定型的事務である。なお、本件カード会社が直接カード会員から原告商品の購入申込みを受け付けた場合には、原告への取次ぎといった事務が発生するが、原告がカード会員の購入申込みを受け付けた場合とで手数料率の差異の理由とされているものとは認められず、むしろ右の取次事務は本件カード会社の宣伝媒体等の利用に伴う広告宣伝事務に付随する事務と考えられる。

5  本件カード会社が行うカード会員の預金口座からの引落事務は、会員規約により規定されているものであるが、所定の期間ごとに合算した利用代金の口座振替によるものであり、原告からの商品購入代金のみを区別して行うものではなく、本件カード会社及びカード会員にとって、カード会員の口座からの振替委託事務は通信販売と店頭カード利用とで区別されているものではない。なお、同一商品であっても、通信販売の場合には、それ以外の販売形態と比較して高い代金設定がされることが当然に是認されているものと認めるに足りる証拠はなく、かえって、これを是認しない旨を明記し、あるいは予定しない旨を規定する加盟店契約がある(乙第一号証の一、第三号証の一、第一〇号証の一)。

6 右によれば、本件手数料は宣伝広告に係る役務の対価としての性質を有するものではなく、また、代金の返還事務の処理に照らしても、本件手数料は一般的なカード会員組織の利用の対価ではなく、個別的な売買代金の回収に対するものであることが明らかであり、本件カード会社及びカード会員にとっても、原告のためにカード会員からの代金回収を行う役務の提供は、他のカード利用代金の回収と同様、専ら代金の決済手段として認識されているものと解することができ、その法律構成も債権の譲渡又は立替払(加盟店契約又は会員規約において代金債権の譲渡が記載されていないもの)とされていることが認められる。しかも、本件カード会社の提供する具体的な事務内容は極めて定型化されていることからすると、本件手数料は、右事務の対価というよりも、迅速簡便な販売、回収組織としてのカード会員組織の利用の対価という面を有するのであって、その法的な性質は、他のカード利用代金に関する振替委託業務と同様に具体的に発生した商品代金の決済手段のための債権の譲渡又は立替払に止まるものというべきである。

なお、加盟店契約における債権譲渡の代金は原告の商品代金と同額であり、本件手数料はこれと別個に観念することができるが、そのことは、本件手数料が決済手段としての役務提供の対価であることを否定するものではないのである。

四  経済実質的な考察

1  原告は、本件手数料がカード会員組織の利用の対価であり、その手数料率に照らしても、金融取引における利子、差益と考えることは経済実質に沿わないものである旨主張する。

たしかに、カード会員からの支払時までの貸付金の利子であるとすれば、本件手数料率は極めて高額である。しかし、通信販売という広範囲かつ遠隔地に居住する顧客を対象とする売買においては代金回収に困難を伴うことは当然に予想されることであり、原告も指摘するとおり、本件手数料は、かかる困難さを解消するために本件カード会社において運営するカード会員組織を利用するものであり、いわば簡易迅速な回収という経済的利益があるからこそ、原告は高率の手数料を支払っているものということができる。しかし、そうだからといって、本件手数料が決済手段に対する対価(法的には債権譲渡、立替払における差益)としての性質を失うものではないのである。

2  また、原告の営業形態が通信販売であることからすると、カード会員組織の利用は営業に不可欠であり、そのための手数料は宣伝広告費等と同様の営業経費に該当するものと原告が考えることも理解できないことではなく、原告が、本件手数料を通信販売事業のための営業経費と考えて、各個の商品の価格決定にその対価の額を反映させることを否定する理由もない。

しかし、法三〇条一項に規定する課税仕入れとは、当該仕入れに相当する資産の譲渡、役務の提供が仕入先の事業者にとって課税資産の譲渡等に該当するものであることを要するのであり(法二条一項一二号)、仕入れを行った事業者にとって簡易迅速な決済組織を利用することが営業上不可欠であるからといって、当該決済組織の利用に係る役務の提供が決済手段としての性質を喪失したり、当該役務が消費されるべき価値の付与行為としての性質を取得したりするものではないのである。すなわち、商品の購入者から当該商品の代金を回収するために債権の譲渡を行うことは、あくまでも決済手段に止まり、非課税取引とされるのであって、この場合に回収事務を定型化し、簡易迅速な回収組織を構築したときは、組織構築者にとってもその利用者にとっても便益を向上させるものであり、この回収上の便益の増加を理由に差益を増額させたとしても、そのこと自体で、右の債権譲渡が決済手段としての性質を喪失するものではないのである。

なお、本件通達においては、割賦販売又はファイナンス・リース等、資産の譲渡と決済手段たる金融取引とが一体となった形態の取引については、金融の対価に相当する部分の特定明示が求められているが、加盟店契約における役務は、その性質を決済手段たる金融取引とするものであるから、本件通達の右の定めが前記判断と抵触するものではない。

ちなみに、本件手数料が非課税取引の対価であるとするときは、本件カード会社は消費税の納付義務を免れると共に、その取引の相手である原告も消費税相当分の転嫁を受けないという利益があるのであり、逆に、本件手数料が課税資産の譲渡等の対価であるとするときは、本件カード会社は消費税の納付義務を負い、その取引の相手である原告も消費税相当分の転嫁を受けるべきものであって、本件カード会社が加盟店契約に係る役務を非課税取引と考えていたときに、これを課税取引であるとすることは、右消費税相当額を原告に転嫁すべしということに他ならない。もっとも、原告の本訴請求に係る消費税額についてのみ着目すると、本件手数料を課税仕入れの対価であるとするときは、本件各課税期間における仕入税額控除の理由となるから、本件における原告の主張は、本件各更正及び本件各賦課決定の取消しを求める理由としては、原告の法律上の利益に関係のない違法(行政事件訴訟法一〇条一項)に該当しないことは言うまでもない。

五  本件各更正、本件各賦課決定の適法性

以上検討したとおり、本件手数料は、加盟店契約又は会員規約に規定された個別的な売買代金の決済手段としての債権譲渡又は立替払の差益というべきである(Nについては、その契約の内容は明らかでないが、その取引の実質に照らして、同様に認定することができる。)から、これに対して消費税が課されることはない。そして、本件各課税期間における消費税額の算出におけるその余の事実は当事者間に争いがないから、本件各更正は適法であったというべきであり、また、本件各更正により納付すべき税額についての過少申告加算税の計算も当事者間に争いがなく、国税通則法六五条四項に規定する「正当な理由」を認めるに足りる証拠はないから、本件各賦課決定も適法であったというべきである。

六  結論

以上によれば、本件請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官富越和厚 裁判官團藤丈士 裁判官水谷里枝子)

別表〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例